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オシムの記者会見に出席した日

川本暢のブログ版「フットボールのアフォリズム」 第一回

オシムの記者会見に出席した日

サッカーはスタジアムで観戦するものだ、とあらためて思った。スタジアム観戦は、テレビ観戦からは伝わらないサッカーの醍醐味を教えてくれる。スタジアムでサッカーを観なければ、実際、ピッチで選手がどう動いて、何を考えてプレーしているのかがダイレクトに伝わってこない、とさえ言える。

3月24日、日本代表対ペルー戦を観るために、日産スタジアムに行ってきた。この日の目的は、代表の試合を観て、そのあとの共同記者会見でオシム監督に質問し、そこで感じたことを『スポルティーバ』(集英社)に書くためだ。

僕は、ずっと疑問に思っていたことがあった。「オシムの言葉」は、世間やメディアで言われるほどに、そんなにも深い意味があって、オシムの表現はレトリックでいう「暗喩」になっているのだろうか、ということだ。今や「オシムの言葉」は、サッカー界だけにとどまらず、サラリーマンなどの人生訓にも利用されている。そこで、僕は、友人である『スポルティーバ』のI編集者に連絡して、記者会見に出席できように手配してもらった。

試合当日、新横浜駅でI編集者と待ち合わせた。たくさんの人であふれていた駅周辺は、待ち合わせには不適切な場所だったと、あとになって気づいたのだが、I編集者は、なんとか僕を見つけてくれた。彼は「髪がのびていたのでわからなかった」と僕に言った。それから、僕たち二人は、スタジアムまでとても速く歩いたような気がした。そう感じさせたのは、久々に凱旋帰国した中村(俊)と高原や代表に復帰した中沢が、どんなプレーをするのかを待ち望んでいたからだろう。

記者席に着くと僕は、サッカー戦術に詳しい一人のライターに声をかけた。「浅野君」と呼びかけた先に、笑顔で振り向く彼がいた。浅野賀一氏には、僕がスタジアムに行くことは、前日にメールで伝えてあった。彼と会うのは数週間ぶりなのだが、なぜか昨日も一昨日も会ったような気にさせられる。彼は弾んだ声で、僕にどんな記事を『スポルティーバ』に書くのか尋ねてきた(彼は『エル・ゴラッソ』で記事を書くそうだ)。「オシムの会見の記事なんだけど」と僕は答えると、「川本さんがオシムをどう書くのか読んでみたいです」と話す。この時はまだ、僕はオシムの本当の凄みをまったく知らなかった。会見が終わって、僕ははじめてオシムがもっている言葉の力というものを知らされることになる。

僕は、自分の未熟さを、オシムとの言葉のやり取りによって知らされたのだ。

僕がオシムの言葉によって、どうして「自分が未熟だ」と感じたのかを、さらに、あの会見で色々と語ったオシムの言葉は、どんな風に読み込めるのかを、『スポルティーバ』に書くつもりだ。僕が、ここで書く事柄は、『スポルティーバ』の記事を読むための前置きになるだろうし、僕を知らない多くの人への自己紹介にもなると思う。

記者会見が終わってスタジアムをあとにして、僕とI編集者は、サッカー談義をしながら駅まで向かった。彼は、「中村(俊)が代表に入ると、なんだか代表がセルティックのような試合運びになるね」と話した。試合には勝ったのだが、なんとなく納得できないことが、ピッチに転がっている試合だったように思えた。試合開始に向かう足取りとは逆に、今度は僕たちの足取りは、少しゆっくりとしていた。彼は、駅に着いて別れ際、僕に向かって「原稿の字数がそんなになくてすいません」と言ってきた。「うん」と僕はうなずいた。ホームへの階段を降りて行く彼に対して、「僕の突然のわがままを聞いて、原稿を書くスペースまで掛け合ってくれて、本当にありがとう」と僕は心の中で彼に感謝した。

川本暢(kawamoto.mi@gmail.com)

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