ブログが嫌いなネット出身サッカーライター
川本梅花のブログ版「フットボールのアフォリズム」第十四回
−すべては『サポティスタ』から始まった−
僕はブログが嫌いだ。その理由は、僕の少年時代の苦い経験にまでさかのぼらなければならない。ある日僕は、日記を書くように母に勧められた。そして母は、書いた日記を自分に見せるように要求した。僕は、それを不自然だと思わず日記を母に読ませる。母は、僕の書く日記を楽しそうに毎日読んだ。そうしたことを繰り返していくうちに、僕は母が喜ぶようにだんだん嘘を書き出した。
「今日、誰々君がこんなことをしました。それはいけないことだと思いました」。その「いけないことをした誰々君」は、他でもない僕自身だったのだ。
日記を読むという母の行動は、何をやっても三日坊主だった僕を見かねて、持続力を付けさせるための発案だったのだろうが、結局それは一ヶ月ももたなかった。母に迎合して書いてしまう自分が、嫌になってしまったのだ。それと母が、僕の嘘を見透かしているように感じて、耐えられなくなってしまった。それ以来僕は、日記を書くことが苦痛になって辞めてしまった。
僕はブログが嫌いだ。それは、嘘の日記を書き続けた少年時代の僕を思い出してしまうからだ。ブログが、個人日記の公開だとすれば、読む人を前提に書くことになる。もちろん、ハンドルネームという匿名性が、書き手に自由を与えて嘘を書かなくてもよい状況が生まれるのかもしれないが、けれどもこの匿名性は、実際の本人の人格とは別の人格を作ってしまうことになる。つまり眠っていて隠れていた人格を表に出すことになってしまうのだ。
と、僕の妄想はこれくらいにして、先日、ここ『サポティスタ』の編集長、岡田康宏氏と食事をした。久しぶりに行ったタイ料理屋は、内装が新しくなって見違えるように奇麗になっていた。彼と会うのはこれが二度目だ。僕は、ジュネーヴに長く住んでいたので、サポーターやサッカーライター、編集者に今までほとんど会ったことがない。彼らとはすべてメールでのやり取りだった。
岡田氏と話をしていて、僕はあらためて気づかされたことがあった。僕は、典型的なネット出身のサッカーライターであるということだ。典型的というよりも、「ネット出身サッカーライター」そのものなのである。なぜならサッカーに関する紙媒体での執筆は、海外サッカー週刊誌『フットボリスタ』に今年1月から始まった連載が最初の仕事だったからだ。
僕がサッカーについて書き始めた場所は、ここ『サポティスタ』だった。あれは2002年頃だったので、いまのようにブログ全盛時代ではなかった。僕はサッカーのことを書きたくて、「サポティスタコラム」のコーナーに週二回以上のペースで投稿した。だから「サッカーを書く」という僕の出発点は、『サポティスタ』から始まったのだ。
そしてこのように、ブログ版「サポティスタ」で再びコラムを書いているのだが、諸事情により「とうとう、初めて、いまさら」ながら個人ブログをもつことになった。行き先は、「ブログ転居先お知らせ」告知編に書かれている。
ところで岡田氏と僕は、川本梅花のブログ版「フットボールのアフォリズム」のアクセス数がどれくらいあるのかという話になった。「ココログブログ」の総合デイリーランキングで、このブログは昨日22位だった。アップされた翌日のランキングは、常に20位前後を行ったり来たりしている。20位が一日どれくらいのアクセス数かといえば約一万アクセスある。これをどう評価するればよいのかわからないのだが、少なくとも『サポティスタ』のトップ画面で紹介してもらっていることが、このアクセス数に繋がっていると思う。
僕は、たくさんの読者に「選手の生の声」や「書き手の生の声」を届けたくて、ここで何度か書かせてもらった。次からは僕自身のブログの中で、「生の声」を書き続けようと思う。そして先日、自覚したことがあった。それは僕が、ネット出身サッカーライターであるという事実に無自覚だったことなのだ。
文/川本 梅花